良い楽器考
自分がドラマーなのでどうしてもドラムの話にはなる。でも全ての楽器で同じ文脈が通じると思う。
良い楽器って何だろう。何がどうだったら良い楽器で、どうなれば悪い楽器なんだろうか。価格の高い安いと、品質の良し悪しは比例するんだろうか。
ドラムを始めてからというもの、ずっと疑問に思っていた。例えば100万円を超えると言われる楽器の音を、これが良い音だ!と記憶してしまえば良いんだろうか。パッと聞いて凄く良い音色だ!と思った楽器を、値段を聞いてそれがもし5000円なら、何だこれは悪い楽器だったのか、と思わなければならないんだろうか。楽器が良いのか悪いのか、正しく認知できないと恥ずかしいんだろうか。ずっと不安だった。
今日はそんな話。
世界的ジャズドラマーが来た
自分が大学3年生のとき、本当に僅かだったけど、人前でお金を頂いて演奏するようになっていた時期。ある日事件は起きた。Lewis Nash氏(Drums)とRon Carter氏(Bass)が松山に来る。ライブだ。チケットは8000円。文句なしの、福島による観測史上最高額である。そりゃそうだ。
Lewis Nash氏と特にRon Carter氏の名前は、ジャズをやってて知らない人は恐らく居ない。野球で例えたら王貞治氏や落合博満氏のようなレジェンドである。その生演奏が聴けるのだ。遠足が待ち遠しい小学生並みにカレンダーを眺めていたと思う。絶対一番前で聴きたかったので当日はたしか4時間前くらいから並んで、ハイハットの真横の席を死守した。
圧倒的サウンドのドラムは…
ライブの感想を書くと恐らく別の記事が1つ書けてしまう。筆舌に尽くしがたく、素晴らしかった。さて問題はこの後である。
海外アーティストが来日する際、楽器は日本で調達することが多いらしい。自前の楽器を空輸するリスクもあるし、労力の点でも経済的な点でも少しタフだ。エンドース契約しているミュージシャンならドラムメーカーから機材提供を受けたり、日本在住の信頼する同じくミュージシャンから借りたり、様々である。
で、このLewis Nash氏の圧巻のプレイとサウンド。使用したのはなんとそのお店の備え付けのドラムだったのだ。正直に言う。全く気が付かなかった。当然機材を用意してきていると思い込んでいた。
これはもちろん自分も叩いたことのあるドラムだ。完全なる別モノだった。
良い楽器、良いドラマー
楽器沼から抜け出すには十分すぎるほどインパクトのあるこの事件をもってして、福島の楽器へのこだわりや不安は消えた。福島もカッコつけて基本的にはお店のドラムをそのまま使う。セッティングもあまり弄らない。一期一会で、そのドラムの良さを引き出すタッチやストロークを習得したいと思うようになった。半分カッコつけだが、でも大事なことだと思う。サウンドに満足できないのを楽器のせいにしなくて良いのは精神的にも楽だ。自分が実力をつければどんな楽器からも素晴らしい音がするのだとしたら、その人にとってはどんな楽器も良い楽器だ。これが現状の福島の良い楽器考である。
※やはり理想の音、憧れのあの名演のあの音…!が自分にもあるので、自前の楽器ではその個性に寄せた選択はしている。が、基本的には何でもどんとこい、のスタンスで演奏している。目の前の楽器を良い楽器にするのは自分だ。

