ジャズドラムとの出会い
ちょっとしたエッセイ、講師のジャズドラムとの出会いについて。
この体験談が果たして一体誰かの役に立つのか…?でもきっと面白い話。
ジャズへの情念
小学校3年生からソフトボールを始めて中学は軟式野球、そして高校野球に至るまでというもの、ストライクを3球相手打者に放り込むことしか頭にない典型的なピッチャー馬鹿だった。持ち球は緩く曲がるドロップカーブ、カットボールまではいかないものの球速差の少ないスライダー、決め球が高校1年で覚えたフォーク。(不思議と硬球だと気持ちよいほどストンと落ちた)
そんな中にも、家の中には比較的音楽が流れていた家庭だったように思う。日曜の朝はカーペンターズがよくかかっていて、お陰で今でもカーペンターズを聴くと仕事中だろうが休日スイッチが入る。ジャズが頻繁に掛かっていたわけではなかったが、親父がしょっちゅうビックバンド在籍時の写真を自慢してくるので、実家にPCとネット回線が来てからというもの、不思議とジャズをよく聴いていた。ジャズなんて全くわからないので正直全部同じ曲に聴こえたし、中二病的な「俺はポップスなんて聴かねーぜ」的な算段もあったろうと思う。ただどこか、何となくでも、グイグイ前進していくグルーヴと、メロディの不思議な緩さ、不協和音かと思うほどにスリリングなサウンドが心地よかった。
大学の入学式の日

おそらく4月3日。某E媛大学の入学式、市内の大きなホールで式典を終えた後は大学構内へ向かう。教科書を買ったり書類手続きがあったり。新入生歓迎の一色である学内は、活発なサークル勧誘で色めき立っていて、まさにここが大学だ!という感じ。茶髪率が高い。ズバズバにキメてる服装の男女もいれば、上下ジャージにボサボサ頭で世捨て人寸前といった学生も跋扈している。とか思いつつ歩いているだけでラグビー部の新歓コンパに誘われた。えーそんなガタイよさそうに見えるかいー!?とか浮足立った自意識がもはや寒くも痒くてたまらない。そんな日。
生のジャズとの出会い
事態は突然起こるものだが、学内を歩いていると遠くからピアノトリオの演奏が聴こえてくる。ジャズ。出会いを語ればまさにこの一瞬だと思う。お、ジャズだなと思う間もなく、この演奏が心臓深くまで刺さった。何が凄いかよくわからんが凄い。吸い寄せられるように足を向け、プレイヤー達の目の前に立つ。新歓路上ライブ、音楽研究会 The Bachelors。後に知る、これがいわゆるジャズ研である。図らずも父親が好きなジャズに足が向いていた。
驚いた原因は徐々に頭に入ってくる。楽器の上手い下手なんて全くわからなかったけど、少なくともこのピアノトリオの3人は、楽器を自分の声のように自由に操っているように見えた。そして彼らは譜面を見ていない。見ていないというより、譜面が無い。彼らは時にニヤリと共演者の顔を見ている…!これまでの入学セレモニーでいろいろな部活動がその演奏をお披露目してくれたけど、そのどれに対しても異色な演奏だった。(この先輩のお三方、卒業後も人前で演奏をする音楽家としてご活躍されている。当時からもそれはもう凄かった。)
ジャズ研への入部届
気が付いたら入部届を書いていた。あっけなくも、だが確実に、自分の大学生活の中心が決まった予感があった。フルートを吹く朗らかな女性がめちゃくちゃ喜んでいる。ビシッとお洒落なイケメンベーシストが頷き、とにかく明るい女性トランぺッターが、早速1名入部したことを通りすがりの知り合いに自慢している。そうこうしていると、大人な落ち着いた雰囲気の女性ドラマーがサークルのことを教えてくれた。入学式の当日から早速大学生の輪の中に入れてものすごく嬉しかったのを覚えている。この4年間、工学とジャズドラムに溺れてやるぜ!やったるでー!と青い決意のその時。
ジャズ研がジャズ研足り得る出来事が起きた。
さっきまで演奏していた凄いドラマー「お!ええやん君!ちょっと叩いてみ。適当にほら。」
ドラムとの出会い
わけがわからないままドラムに座る。ジャズはアドリブ、らしい。知識としては知っている。でもアドリブだから何やっても良いわけではなさそうだし、ここは路上演奏の最中。言うまでもなく自分はド素人。本気かよ。
凄いドラマー「ジャズ適正試験や!ドラムソロやってみよう!!」
これがドラムとの出会い。全く覚えていないけど、恐らく手あたり次第に叩き散らかした。イメージと違って随分と綺麗な音がするな、とも思ったのを覚えている。演奏と呼べる代物でもない演奏をみんな喜んでくれたのも、嬉しいやら、恥ずかしいやら、情けないやら。ただこの日、出来る出来ないの前に恥ずかしさをかなぐり捨てて叩いてみたことが、後の全てに繋がった。ドラムセットに座って心から良かったと思う。
元々音楽を聴くことは好きだったけど、この日からはほとんど毎日音楽を聴いているし、社会人の今では自宅に防音室まで作ってドラムを叩いてる。ライブを聴きに行くことも自分がライブに出ることも贅沢な気持ちでいっぱいだ。セッションで仲間たちと演奏しながらお酒を飲むことは幸福そのものだと思う。
そうこうしていると様々なご縁を頂いて、ドラム講師として様々な方たちと一緒にドラムを叩けることになった。今の時点でドラム講師として4年目、驚くほど入れ替わりも少なく、通算で17名の方が来て下さっている。土曜日のみ開講しているマスハラ楽器でのレッスンは今や空枠が2つしかない。感謝しかない。
音楽との出会いは人それぞれ、どうか一人でも多くの人が、音楽を人生の傍に置くことの豊かさを知ってほしいと思う。

